物語・小さな天使の物語
第1章・カズ
青空がひろがり、桜が咲き誇る神社に続く道を一人の少年が駆け抜けていった。
少年は神社に着くと賽銭を投げ入れ力一杯に鈴を鳴らし、静かに目を閉じ手を合わせた。
「・・・・・・・・・」
「何をお願いしているのかな?」
突然声をかけられた少年は、驚いた様子でその声の主の方に振り向いた。
そこには透き通る紫の髪を腰元まで伸ばし、紅白の和服を身に纏った少女が静かに立っていた。
突然声をかけられ、戸惑った様子を見せる少年に少女は静かに言葉をつづけた。
「私はこの神社の巫女さんで、アメジストって名前なの♪よろしくね♪」
「君は何て言う名前なの?」
アメジストはそう笑顔で語りながら少年に近づき、ゆっくりと少年の目線に膝を落とし笑って見せた。
その仕草に安心したのか、少年は元気に話し始めた。
「僕カズっ言うんだ!!」
「昨日この町に引っ越してきたから、この町の神様に挨拶をしに来たんだぁ~」
「へぇ~カズ君は偉いんだねぇ~お姉ちゃん尊敬しちゃった♪」
そう言われたカズは、頬をほのかに赤くするのだった。
「でっ・・・、神様何て言ってた?」
「うん、此方こそ宜しくだって!!あと「算数の勉強も頑張りなさい」だってさ」
「あははっ♪神様は何でもお見通しだね♪」
「それじゃあ、勉強もうんと頑張らないとね。」
そう言われるとカズは、苦笑いをしながらぺロッと舌を出して見せた。
それを見たアメジストは、「あぁ~いいのかなぁ~♪神様はちゃ~と見ているぞぉ~♪そんな態度だと夜夢の中で怒られちゃうぞぉ~♪」と言ってみせた。
するとカズは驚いた顔をして、そろ~っと後ろを振り返り奥の本殿を覗くのだった。
「あははっ♪大丈夫大丈夫、神様も皆が勉強が嫌いだって分かってるから、それくらいじゃ怒られないよ」
そうアメジストに言われて、ようやくからかわれた事に気づいたカズは今度は頬をぷくっと膨らませた。
「あぁ~ごめんごめん、今のはお姉ちゃんが悪かったから・・・飴ちゃんあげるから許してぇ~」
そう言いながら、袖口に在る筈の飴玉を探しながら言葉をつづけた。
「神様に何かお願い事したの?」
「うん!!」
カズは元気良く頷き言葉をつづけた。
「春休みが終わったら、新しい学校に行くんだぁ~」
「だから新しい学校で、お友達がた~くさんできる様にお願いしたんだぁ~」
「お友達・・・できるかなぁ・・・」
ちょっと不安そうにカズは、アメジストの顔を見つめる・・・
「大丈夫だよ!!カズ君は良い子だから、きっと沢山お友達ができるよ。」
「お姉ちゃんが保障する!!」と言いながら優しく笑った。
「お姉ちゃん面白いね」とカズが言うと、アメジストは「そ、そお?」と言いながらペロッと舌を出しながら、ようやく袖口に在る飴玉を探し当てたアメジストは、突然真剣な顔になりカズに語りかけた。
「お姉ちゃんから、1つお願いが有るから聞いてくれる?」
カズは今まで笑顔を振りまいていたアメジストが、突然真剣な顔で話し始めたので少し戸惑ったが、カズは無言で頷いた。
それを確認したアメジストは、静かに言葉をつづけた。
「カズ君は近い内に1人の女の子と出会うことになるの・・・」
「その女の子はカズ君にとって、これから先と~っても大切な人になるの・・」
「だから・・・カズ君はその女の子を、何があっても守り抜いてほしいの・・」
「突然こんな事を言っても分からないかも知れないけど、約束してくれるかな?」
カズは、想像していなかった言葉に戸惑いながらも元気に「うん、約束する!!女の子を守るのは、男の子の役目だもんね♪」と言い笑ってみせた。
アメジストは、そんなカズの頭を優しく撫でながら、カズにさっき探し当てた飴玉を手渡すのだった。
カズは、早速もらった飴玉の包みを開き口にほおばると、口に広がる甘味に顔をほころばせた。
「さぁ、もうすぐ夕暮れの時間ですよ、そろそろ帰らなくていいのかな?」
それを聞いたカズは、慌てて「えっ!!もうそんな時間なの!!」言うと鳥居の方へ駆けて行ったが、鳥居の前で何かを突然思い出したように立ち止まり戻ってくると、「お姉ちゃん、飴玉ありがとう」と言うと、すぐにまた鳥居の方へ駆けていくのだった。
そんな姿に笑いながらアメジストは、「どういたしまして~また遊びに来てねぇ~」と言い手を振った。
カズにもそれが聞こえたらしく立ち止まると、2.3度手を振りまた家に向かって駆けていくのだった・・・
その姿が見えなくなるのをみると、夕日に染まる空をみなから「あの子なら、きっと大丈夫」そう自分に言い聞かすように静かに呟いた・・・
何とも言えない不安をかき消すかのように・・・