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現代版・人魚姫

第0章 プロローグ

 

7年前・・・・・

「ほ~ら裕理〔ゆうり〕、海に着いたぞぉ~♪」
「うわぁ~・・・凄く綺麗♪お父さん♪ココで泳いでも良いの♪」
「ああ良いぞ♪その代わりちゃんと準備運動をするんだぞ♪」
「うん、分かった♪」
そう返事をすると、裕理は海へと駆けて行った。
「ほら、そんなに走ると転びますよ」
「大丈夫だって、お母さん♪僕大きくなったから転んでも泣かないよ♪」
裕理は一旦立ち止まってから、そう答えるとまた海へと駆けて行った。
「もう!!誰かさんに似て腕白なんだから・・・本当誰に似たんでしょう?」
「ん~?それはだな・・・うん・・・」
そう言いながら、お父さんは少し気まずそうに隣に居るお母さんに目線を移した。
お母さんは、そんなお父さんの横顔を見ながらニコニコと笑っていた。
「ねぇ・・・貴方・・・覚えている?」
「・・・あぁ・・・覚えているよ・・・」
「懐かしいわね・・・」
「あぁ・・・懐かしいな」
「あの時の貴方ったら、泳ぐのが上手くないのに無理して沖に出て泳いでいましたね♪」
「・・・仕方なかったんだよ・・・中学にもなってクラスで泳げないのは俺1人だけだったし・・・恥ずかしいだろ!!」
「ふふっ、皆に隠れて練習をしてて、溺れた方がもっと恥ずかしくない?」
「でも、溺れたおかげでお前と出会う事が出来たんだけどな。」
「あらあら、あの時偶々私が近くを通り掛かったんだから良かったけど、もし通り掛らなかったらどおなっていた事か・・・」
「感謝しているよ」
「本当ににぃ~・・・?」
「ああ・・・本当だとも」
「ふふっ、良かった♪ 裕理も私達みたいに可愛いお嫁さんを見つけてくれると良いんだけどな♪」
「おいおい・・・何年先の話をしているんだよ・・・裕理はまだ5歳だぞ・・・」
「ふふっ・・・そおでした♪」
お母さんは、ペロッと舌を出して笑って見せた。
「全くお前は、昔と全く変らないなぁ・・・」
そう言うとお父さんは、お母さんを抱き寄せ頭を優しく撫で始めた。
「へへっ・・・そう言えば裕理は何処かしら・・・」
「ん・・・浮き輪を付けて、海で泳いでいる筈だが・・・いない・・・」
「えっっ!!もしかして溺れたんじゃ!!」
「落ち着け!!まだそうと決まったわけじゃない!!浮き輪があるんだから大丈夫だ!!とりあえず、俺は海を捜すからお前は砂浜を捜してくれ!!」
「はい!!」



「どおしよう・・夢中になって泳いでいたら・・沖に流されちゃったよ・・・」
バシャバシャバシャ・・・
裕理は、自力で陸に戻ろうとドーナツ型の浮き輪に胸を通して捕まり、バタ足を始めた。
バシャバシャバシャ・・・
「うう~・・・全然進まないよ・・・ソレに逆に沖にどんどん流されてるよぉ~・・・波も高くなってきてるし怖いよぉ~・・・」
その後も懸命にバタ足を続けたが、全く前に進まずとうとう裕理はバタ足を止めてしまった。
「つ・・・疲れちゃった・・・どおしよう・・・段々水も冷たくなってきたよぉ~・・・」
その時少し高い波が裕理に押し寄せて、頭から海水を被ってしまった。
「うわつっ・・・しみる・・・海水が眼にはいっちゃ・・・」
海水が眼に入ってしまって思わず浮き輪から手を離してしまった裕理は、一瞬の内に海中に沈んでしまっていた。
ごぼつっっ・・・!!
「息ができない・・・!!」
裕理は突然の出来事に驚いたのか、思わず息を吸ってしまった。
「苦しい・・・助けて・・」
遠のく意識の中で、遠くから人影が近づいてくるのを感じながら、裕理は意識の闇に落ちていった。
「ね・・・ぇ・・・ねぇ・・・」
裕理は誰がに揺すられながら、薄っすらと眼を開いた。
「う・・ん・・・ココは?」
「海の底だよ♪」
金髪の女の子が答えた。
「海の・・底・・・?」
次の瞬間裕理は慌てて手で口を塞いだ。
「心配するな、お前は泡の中に居るから普段通りにして問題ない」
今度は、大人の人が答えた。
それを聞いた裕理は恐る恐る手を離し息をした。
「ほ・・・本当だ・・・」
「ねぇねぇ♪きみ人間なんでしょ?何でこんな所に居るの?教えて、教えて♪」
金髪の女の子が珍しい物を見るかの様に興味津々に聞いてきた。
「コレ!!人間相手に口を聞くもんじゃない!!上に浮き輪が在る、大方手を離して溺れたんだろう!!」
「あっ・・・本当だ・・・」女の子は上を見ながら小さく言った。
「人間の子供よ、我々は見ての通り人間じゃない・・・人魚だ・・・此処は我々の暮らす場所であってお前の居る場所ではない、即刻この泡を使って立ち去るがよい」
裕理は今一事態を理解できないでいると、それを聞いた女の子が残念そうに言った。
「え~っ!!折角人間に会えたんだし、私この子と遊びたいよ~・・・」
「ダメです。」
キッパリと大人の人魚が答えた。
「え~っ・・・何でよぅ・・・「大昔は人間と普通に交流があって、遊んだりお互い助け合って暮らしていた」って私聞いたわ!!」
女の子が不満げに言った。
「それは遥か大昔の事・・・人間は変ってしまったのです・・・今では只の自分勝手な生き物です・・・昔とはもう・・・状況が違うのです・・・」
「なによそれ・・・」
女の子は詰まらなそうにぷぅっとほっぺたを膨らませた。
「さぁ・・・人間の子供よ・・・帰るべき場所に帰るがよい・・・お前が念じれば、その泡が海上まで送り届けてくれるだろう・・・」
それを聞いた裕理は、お父さんとお母さんの顔が思い浮かべた。
すると裕理を乗せた泡は、海上を目指してグングンと上昇を始めた。
裕理は直ぐに海底を覗いたたが、もう海底が見えないぐらいに上昇していた。
「人間の子供よ・・・せめてお前だけは我々の事を忘れないでくれ・・・・」
大人の人魚は上昇していく裕理を見ながらポツリと呟いた。
「でも不思議ね、あの男の子人間なのに私達と同じ目の色をしていたわ♪何でだろう・・・?」
不思議そうに子供の人魚がポツリと言った。
!!
それを聞いた大人の人魚は、ハッとした様子で再び上昇していく裕理を見るのだった。
そして、何かを懐かしむように小さく呟いた。
「ひかりよ・・・元気にしている様だな・・・良かった・・・」
「ん?何か言った?」
「いや・・・只の独り言だ・・・我々もさぁ町へ帰るぞ」
「はい」
そう言って少し進むと、ふと何かに気づき大人の人魚は動きを止めた。
そして、近くに在るピンクの珊瑚を人差し指代にポキッと折ると、小さな泡に包み裕理が上っていた方向に向かって放り上げるのだった。
珊瑚を包んだ小さな泡は、裕理を包んだ泡よりも速くグングンと上っていき、直ぐに見えなくなってしまった。
「どうしたの?」
少し離れた場所で女の子が聞いてきた。
「すまん、今行くよ」
大人の人魚はそう答えると、直ぐに女の子も元に追いつくとそのまま2人は海の奥へと消えていった。



気がつくと裕理は海面に顔を出していた。
慌てて近くに在る浮き輪にしがみ付こうとしたが、直ぐにある事に気づいた。
深さこそ裕理の首下まであるが、裕理の両足はしっかりと底に着いていた。
「アレ・・・?こんなに浅かったけ・・・?」
「ゆうり~どこ~・・・」
「ゆうり~・・・」
遠くで裕理を探す声が聞こえた。
「お父さん・お母さん、ココだよ~!!」
裕理は元気一杯に両手を振って見せた。
そんな裕理を見つけたお父さんは、急いで駈け寄ってきた。
「こんな深い所まで行っていたのか!!大丈夫か?」
「うん♪人魚さんに助けてもらったから大丈夫だよ♪」
それを聞いてポカンとするお父さんを他所に笑顔で答えた。
少し遅れてお母さんも裕理の元に駈け寄ってきた。
「良かった・・・」
そう言うとお母さんは裕理を抱きしめた。
「もう・・・心配したんだから・・・」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
「んん・・・もういいの・・・裕理が無事だったから・・・」
そう言うとお母さんは更に裕理をギュッと抱きしめるのだった。
「ひかり、裕理・・・この海で人魚にあったんださ。」
お父さんは少し苦笑いをしながら、お母さんの方に向かって言った。
「そう見たいね」
「はっ?」
お母さんが予想外な返事をしたので、お父さんは首を傾げてしまった。
「こういう事♪」
お母さんは、お父さんに向かって手のひらの物を見せるのだった。
其処には、人差し指ぐらいのピンクの珊瑚の欠片が光っていた。
「この子、私のお姉さんに会ったみたい♪」
そうお母さんが説明すると、二人して笑い合うのだった。
「そうかそうか裕理は人魚に会ったんだ、でもなこの事は誰にも秘密だぞ」
「えっどうして?」
イマイチ理解できない裕理が聞くと、「どおししても♪」とお母さんが笑顔で答えるのだった。
「さあ、帰るぞぉ♪お父さんお腹すいちゃったぞ!!」
「うん♪僕もお腹すいちゃった♪お母さん今日の夕飯は何?」
「今日は、裕理の大好きなハンバーグよ♪」
「わ~い♪」
そんな話をしながら、3人は橙に光る海を背にして家路に着くのだった。

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